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<うつ病の研究史 〜精神分析的観点から〜> X.抑うつの精神分析的な理解の歴史 2、 アブラハムからクラインへ 当時アブラハムはフロイトの意向に反して精神病と子どもの分析に関心を持っていました。そこに彼の分析を受けるためにクラインがやってきたのです。何という幸運な巡り合わせだったことでしょうか。アブラハムはクラインの子どもの分析を支援し、その成果で自身の躁うつ病研究を深めることができました。そしてそれはさらに、彼女のその後の誠に独創的で巨大な精神分析の展開をもたらしていく端緒となったのですから。 フロイト、アブラハムの跡を受け継いでクライン(1935)が解明したのは、乳幼児のこころの中の早期不安状況(1946年に「分裂的機制に関する覚書」の中で「妄想−分裂態勢」として概念化される)から新たな心的な発達として展開してくる「抑うつ態勢」という心的コンステレーションでありました。ここに到って乳幼児は早期不安状況のときの部分対象関係とは異なって、全体対象としての愛情対象を心の中に内在化させるという課題に直面することを明らかにしたのです。愛情の対象をよい状態で自己のこころの中に内在化するためには愛情が憎しみを充分に緩和することができていなければなりません。つまり、自己の憎しみで傷つけてしまったと感じられている対象に対して償い、修復できていることが必要なのです。この心的な課題が充分に達成されていることが健康な心的な発達にとって必要不可欠なのです。 さらに、彼女(1940)は自らの対象喪失体験の自己分析を通して、外的な対象喪失体験が内的な対象喪失体験をも引き起こしてしまうことを明らかにしました。つまり、人は愛情対象の喪失により現実の愛情対象を失うだけでなく、内的な愛情対象を失うことになり、乳幼児期の抑うつ態勢の葛藤が再燃することになるのです。人は対象喪失体験に引き続き愛情対象を内在化するという作業に再び取り組まなければならなくなるのです。 しかし、この対象喪失体験による抑うつ態勢の崩壊(妄想 - 分裂態勢への退行)、再統合という動きは最初の抑うつ態勢の確立時から繰り返されているものではあるのです。私たちは臨床的に問題となる抑うつ状態に陥ることがなかったにしても、micro object loss - micro depression を、生きている限りは繰り返しているのです。そのときに、全体対象としての愛情対象をしっかりと内在化させるという課題を達成できていない人の場合は妄想−分裂態勢の心性を持ちつづけ、後で述べる自己愛的な状態に引きこもる人もでてくるのです。精神病が潜伏すると言ってもよいでしょう。 |