賀来メンタルクリニック

福岡県福岡市中央区薬院4-1-26 薬院大通りセンタービル弐番館2Fメディカルフロアー

心と体を取り戻すための語りと癒しの場
理事長・院長 賀来博光 (精神保健指定医、日本精神分析学会認定精神療法医)

精神科・心療内科・神経科・漢方診療
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うつ病とは


うつ病の研究史


精神分析入門

<うつ病とは>


[ 抑うつとは

抑うつは、失われた愛情対象の償いと取り入れ内在化の過程の病理です。対象喪失体験に引きつづいて抑うつ態勢の破綻と妄想−分裂態勢の活性化が起こります。ですから抑うつとは、抑うつ不安、迫害不安、解体・破滅不安をそれぞれに混じえたものであり、さまざまな情緒が束になったものなのです。そして償いのメカニズムが順調に作動しないときには、これらの苦痛な情緒をともなう対象に対して取り入れ同一化、躁的防衛、強迫機制、投影同一化がそれぞれの病者の病理水準に応じて作動します。後述するようにこれらの心的メカニズムが高度に組織化されて複雑で変化しにくい病態が形成されることもあります(病理構造体、パーソナリティの精神病部分)。
こうしますとおわかりのように、抑うつを呈するさまざまな病態が存在することがわかります。喪失した対象の損傷の程度・性質が抑うつの性質を決め、これからの心的メカニズムの組み合わせが統合失調症、分裂感情障害、精神病性のうつ病、躁病、うつ病、さまざまの神経症、行動障害、さらにはメタボリックシンドロームなども含めた身体疾患などの病態の選択を決定します。
たとえば、フロイトが「悲哀とメランコリー」の中で解明した、失ったアンビバレントな対象との自己愛的同一化による自己非難は原始的な取り入れ同一化の結果です。対象とのつながりを失わないためにはアンビバレントな対象であっても取り入れて同一化せざるを得ないという苦痛に満ちたぎりぎりの選択なのです。しかし対象がまったく存在しないよりは、また最終的に解体してしまうよりはまだ耐えられるのです。アブラハムが定式化した口唇的な取り入れと肛門的な排泄のサイクルは、これに躁的防衛(肛門的な廃棄)のメカニズムが加わっています。排泄された対象の損傷がひどくて取り入れられないで外在化(投影同一化)されたときに妄想状態が起こり、特定の身体部位と同一化したときには心気状態が起こります。さらに断片化が激しく迫害対象群となって排泄されている場合が統合失調症です。ヒステリーの場合は取り入れの対象となるのは部分対象ではなく性的な存在としての、全体対象としての一人の人物です。

 “神聖な絆で結ばれた理想化されたカップル”、“「絶対に正しい」懲罰的な超自我対象”という迫害的な理想化対象としての超自我対象という物が形成される場合があります。治療の経過の中でこの内在化された両親像に対する怒りを意識化し、アンビバレンスに耐えることができるようになっていくことで、強迫や抑うつの改善、結婚も可能になっていったという展開もあるのです。しかし生々しいどろどろした性的な現実もそこにはあります。これは「自分はどろどろしたものを持っていて大人になれない」という“心の二次性徴”をめぐる問題とつながります。これは母親を病気にして殺してしまい、親の理想を裏切り、結婚を葛藤的なものにすることもあります。そうして、患者はこの“どろどろ”という自己の悪しき欲動によって傷つけた対象である、“寝たきりになって孤立していく”親に同一化するのです。患者の迫害的罪悪感の根源は親との葛藤に由来しているのです。
 同じ取り入れであっても性質が違うのは、口唇羨望の性質が違うことによります。羨望が激しければ、取り入れられ方も激しく手当たり次第に取り入れられ、また取り入れられた対象もさらに損傷を受けたり断片化したりするのです。投影と取り入れが激しく混在・混乱している状態が、分裂感情障害でしょう。躁的防衛は躁状態だけでなくほかのさまざまな病態や状況と関連してきます。たとえば、前述した自己愛状態と並んで病理構造体のベースにもあるものです。そして、躁的防衛も強迫機制も不全型の償いであると考えることができます。
 抑うつ態勢で経験される、よい対象を自分が傷つけてしまったという罪悪感は、自分の中に傷ついた対象があるという心の内側からの感覚です。このことにコンテイナーである心が耐えられないと、傷ついた対象の排出が起こります。これを外部の対象がコンテインし修復してその個体に戻してやることができればいいのですが、そのようなコンテイナーとして機能してくれる対象がいないとき、つまりコンテイナーが負のときは、罪悪感は回帰してきて迫害的罪悪感として体験され直すことになるのです。すなわち、抑うつ的罪悪感が発達的に原始的な水準に退行して体験されることになるのです。つまり負のコンテイナーとは、コンテイナーとしては存在しなかったり、コンテインメントを積極的に拒否するがためにアルファ機能の逆転−意味の剥奪化(脱象徴化)を引き起こすに到る、負の機能を持った対象なのです。

 このダイナミズムは抑うつという病理的な喪の過程が起こる理由についての対象関係論的な心的発達論の観点による整理と、ビオンのコンテイナー/コンテインドモデルによる理論化につながります。とくに、迫害的罪悪感に関する先行研究からの展開としての理論的なつながりのある、悲哀の排除というメカニズムによってパーソナリティ病理に基づく抑うつ関連事象が近年解明されたことは特筆すべきものです。これは歴史的にわが国の古澤平作(1932)が先鞭をつけ、グリンバーグが概念化した迫害的罪悪感と抑うつ的罪悪感の認識についての先行研究の展開という位置づけができるでしょう。排除された悲哀はコンテイナーを探し求めるコンテインドです。コンテイナーとつがわなかった(つまりコンテイナーが負であること)コンテインドはアルファ機能による変形を受けることができず最終的にはアルファ機能の逆転によって迫害的な意味に変容し、さらには意味の剥奪、脱象徴化に向かうことになるのです。

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