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<うつ病とは> X 自己愛について 原初対象である母親から生れ落ちるときから私たちの悲哀の仕事は始まるのでしょう。これを、ラッカー Racker、H.(1957)やメルツァー(1988)のように primary depression として概念化する分析家もいます。しかし悲しみは、そして不安も罪悪感も、耐えるには乳児の心には重すぎるのです。乳児が心を保ちつづけるためには苦痛な体験である喪失・心の痛みを悪いものとして分裂排除し、わずかなよいものを理想化してそれが壊れないように悪い体験から守らねばなりません。これがフェアバーン Fairbairn、W.R.D.(1940)のいう原初的な分裂現象と通じるものであり、メルツァー(1978)の言う「適切なスプリッティング−理想化過程」の考えに発展するものです。悲哀の仕事に耐えられないからクラインの言うスプリッティングの機制を用いるのです。 クライン(1935)が指摘しているように、この抑うつ態勢と妄想−分裂態勢とは本来混在しているものです。クラインは理論的にこの2つの心的コンステレーションの特徴を明確にするために、これらを概念化したのです。しかし現実には、この2つのコンステレーションは相互に入り混じっており、心は力動経済論的に常にこの両者の間を揺れ動いているのです。私達の日常を振り返った場合、この感覚はすぐに感得できることでしょう。 態勢間での揺れ動き方は人によってずいぶん違います。死の本能が強く働いていて羨望が強く、少しのフラストレーションに耐えることも難しかったり、また乳幼児期においてその原初的なコンテイナーである母親の側に乳幼児の情緒を汲み取るコンテイニングの能力が乏しかったりする場合は病理的な自己愛組織を発展させることにもなります。 つまり病理的な意味での自己愛そして自己愛的な関係とは、おおむね抑うつ態勢下にある個体が心性として引きずっている妄想−分裂態勢の心的メカニズム(活発な投影ととり入れ、スプリッティング、理想化、否認)が活性化されている事態を言っているのだと私達は思います。これに躁的防衛が加味され、さまざまなパーソナリティ病理が構造化されます。この典型的な形態が、病理構造体であり、パーソナリティの精神病部分とも呼ばれるものです。 妄想−分離態勢によっても耐えられないときには、心的空間そのものの破壊、排泄が起こります。自閉症をはじめとした発達障害はこのようにして起こるのです。 母親との情緒的な触れ合いに乏しく、手のかからない、おとなしい、よい子だった人は依存や怒り、悲哀といった自己の情緒を実感することは難しく、それらはもっぱら投影機制により排泄されるようになっていきます。そして劣等感、挫折感の起こりやすさ、過敏さ、さらには被害感の抱きやすさと他罰傾向といった特徴が形成されていきます。こういった感覚はたとえばある種の信仰に類似した特殊な思い込みによる自己愛的・誇大的・万能感と理想化により防衛されるようになります。しかしその対象は内在化された愛情対象とは異なる自己愛的な対象なので、心はいつも空虚で傷つきやすいのです。これは自己愛的なパーソナリティの特徴です。 |