賀来メンタルクリニック

福岡県福岡市中央区薬院4-1-26 薬院大通りセンタービル弐番館2Fメディカルフロアー

心と体を取り戻すための語りと癒しの場
理事長・院長 賀来博光 (精神保健指定医、日本精神分析学会認定精神療法医、スーパーヴァイザー、日本精神神経学会認定精神科専門医、指導医)

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精神分析入門

<精神分析入門>


11-1.精神病の精神分析学的研究の成果

 本格的な抗精神病薬療法による精神病の薬物療法が可能となる前の1950年代前半の頃から、クラインの直接の指導を受けた精神分析家のパイオニア達、つまり、シーガル、ローゼンフェルト、そして、ビオンといった人たちが、クラインの1946年の論文「分裂機制についての覚書」を理論的な根拠として果敢に精神病者の精神分析療法に取り組みました。その成果は、現代の我々精神科医にとっても、決定的な影響を今でも及ぼし続けています。その要点をお示しします。
それは、パーソナリティの中の精神病部分というものの存在が明らかになったことです。パーソナリティの中の精神病部分の働きが活性化すると、パーソナリティは一時的、ないし部分的に精神病水準で機能するようになります。
 研究の端緒は、精神分析操作によって、それまでは神経症と診断されていた病者に精神病が顕在化する潜伏精神病と呼ばれる病態でした。又、精神分析療法に対する陰性治療反応の研究から、特殊な自己愛性抵抗の存在が推測されるようになりました。それはパーソナリティの一部が破壊衝動を中心にして、快・不快原則つまり一次心的過程に従って高度に組織化された、いわゆる病理構造体であることが解明されました。これが後にBION WR(1993)が統合失調症の精神分析を通して解明した、パーソナリティの中の精神病部分と呼ばれる人格構造と共通した認識だったのです。一方、アメリカではKERNBERG O(1996)がパーソナリティの全体が精神病水準で機能する精神病的人格構造を想定しています。
パーソナリティの中の精神病部分の働きがパーソナリティ全体を支配するようになると精神病状態になります。統合失調症性、統合失調症型、妄想型の人格障害はもちろんのこと、重症神経症、身体化障害などはパーソナリティの一部が精神病部分によって支配されているという意味で、部分精神病と呼ぶことができます。
 パーソナリティの中の精神病部分は具体的にはどのような現象をもたらすのでしょうか。それが治療者との関係の中で顕在化すると、現象記述的には転移性精神病と呼ばれる事態が起こります。これは、強烈で、固執的で、表層的で、急激な進展性といった特徴を持ち、通常の臨床的な精神病状態となんら変わるところはありません。病者は、現実認識に必ず伴う苦痛な抑うつ的な体験での言語性思考や抑うつ不安感情をその苦痛ゆえに破壊せざるを得なくなります。つまり、精神病の目的は羨望という破壊的な憎しみによる、思考・情緒といった意味の連結を攻撃することにあるのです。そのため、治療者の中には激しい眠気、思考麻痺、自己解体感、迫害感などといった逆転移感情が特徴的に生じます。
 神経症水準の治療は、病者が信じている誤った概念化の修正を目的とします。しかし、精神病の治療の目的は、明確で具体的な言語を用いた詳細で徹底した解釈により、未だ心的な内容となっていない具象思考(ベータ要素)を象徴化していくことにあります。
 このように、狭義の精神病のみならず人格障害や重症神経症の病態理解と治療にとって、パーソナリティの中の精神病部分という概念は精神病性転移、病理的な分裂機制と排泄性の投影同一化といった概念と共に最も重要な基本概念となっています。


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